波 | 裏日記

あのとき私達は仮面同棲だったのだろうか

そこにいる彼には人格はなく

ここにいる私は存在価値をなくしてしまったように感じた。

私は必死だった。

研究の合間を縫って彼に晩御飯を用意しに戻る。

私はここにいる。

そう言いたかった。

彼は時に帰らない。

帰っても私の顔も見ずに擦り寄ってきてセックスをする。

案の定バランスを失って混乱した。

そうしている間に彼のほうでも整理がついたのか

まっすぐ帰ってくるようになった。

私のほうは変な強迫観念に迫られ

ロボットのようにご飯を作り

洗濯物をし

掃除をし。

無表情の毎日。

でも彼の寝顔をみると心が緩んだ。

抱きしめた。

そして朝、また私はロボットになる。

それの繰り返し。

そうして就職活動が始まった。

全力でやりたい。

今まで時間と金を費やしてきたんだ。

これからに生かしたい。

そんな感じだったから

帰ってテレビの前でのほほんとビールを飲んでいる彼

眠くなると畳の上で寝てしまい動かない

愛すべき情景に

いらついた。

子供じゃないんだから・・・・・。

私の部屋は彼のガラクタと脱ぎ散らかした服で溢れた。

時に言い負かしてしまい辛い顔をさせた。

その度に抱きしめた。

始めは硬くなっていた彼の心が

そうすることですこしほぐれた。

そうして私の心もほぐれた。

そうするうちに彼もわきまえるようになった。

「ちょっと手伝って 怒」

全て投げ出してしまう前に

彼に晩御飯の買い物を頼むようにした。

彼はお使いが気に入ったらしく

電話を架けてきては何かいるものはないかと尋ねた。

ちゃっかり自分の好きなお菓子を買ってきたりする。

そうして私は就職活動でよく家を空けた。

4月に入ると4~5日東京ということもあった。

にゃあにゃあと電話をしてくる

寂しがりの彼。

帰ると抱きついてくる。

彼は私の顔も見るようになった。


寄せては返す波のように

気付けば岩が砕かれ砂となっていた。

でもやっぱりキスはない。

やっと少し心を許しあったところ。